アドベンチャーツーリズムにおいて、自然と人の融合に木造建築はその架け橋として調和する存在になります。スコーミッシュで建設中の森の展望台へと繋がるツリーウォークなどについて講演が行われました。
【講師】アダム・ガーバー
Aspect構造設計事務所 プリンシパルアーキテクト
http://aspectengineers.com/
Sea to Sky Elevated Tree Walkの設計監督を担当。構造工学の分野で実務経験・ 技術経験を持ち、パッシブハウス・コンサルタントの資格も有する。
セミナーハイライト
ASPECTは、バンクーバーに30人のスタッフがおり、その他にトロントやスイスにも事務所があります。カナダやアメリカ、ヨーロッパ、アジアでは韓国でプロジェクトを展開しています。
こちらは、アドベンチャーツーリズム用の構造物で、BC州ビクトリアのマルハット・スカイウォークです。こちらは展望台の役割を果たしますが、頂上まで歩いていくことができ、素晴らしい景観を楽しめます。
こちらは、ボウリバー橋というプロジェクトです。物理的な構造物が美しい国立公園の中に存在しています。
ツーリズムセミナーでも話があった美しいスコーミッシュに建設中のプロジェクトです。
こちらもスコーミッシュのプロジェクトでクリフウォークと言い、コンセプトの初期から関わっています。写真のように、壁にしがみつくように歩道を作っており、眼下には川の流れがあり、ユニークな自然体験ができます。
こうしたプロジェクトの話のときに大切なことは、どのような環境で行うのか?どのようなアクセスを提供するのか?このスペースをどうしていくのか?です。 こちらはマルハット・スカイウォークの現場の写真です。具体的には、左下の頂上からの景観を、どのように行きやすいようにするか?ということです。
先程のボウリバー橋の現場です。国立公園の中にありますから、環境への意識が大変高い場所です。川を越えて橋を架けるという野心的なプロジェクトですが、細心の注意を払わなければいけません。自然の美を壊さないように活かしながら空間を保管し、アクセスを提供し、自然に溶け込んでそれを体験する場所になります。
こちらのスカイ・スパイラルは非常に素晴らしい景色ですけれども、オーナーやディベロッパーはここに人に来てもらい体験してほしいと考えています。提供しているのは、チャンスです。これまでにないような景観を見ることができ、スカイ・スパイラルがなければ体験できないようなバックカントリーを経験できるチャンスを提供しているのです。
次に、アプローチについてお話したいと思います。クライアントがどのようにプロジェクトに惹かれて私たちがなにを問いかけているのか?についてです。このプロジェクトが理にかなっているのかどうか、こうした驚異的な自然環境の体験を大勢の人が安全に体験するにはどうしているのか?自然を尊重する安全なやり方とは?それをどうやって実現していくかということです。
自然の中にたくさんの人を誘致していくときに、どうやって環境に影響を与えることなく体験してもらえるか、管理していくのかは、もっと大きな視点からのソリューションを考えていかなければいけません。
クライアントが私たちにコンタクトしてサイトが特定した後、どのようにそのサイトをしていくのか?については、インスピレーションを得るためにいろんなプロジェクトを見ます。具体的には、いかに難しいのか?を判断したり、技術的なソリューションを見出したり、アトラクションがどのくらい成功するのか?多くの人が訪れるのか?などです。
マルハット・スカイウォークについて詳しくお伝えしたいと思います。施工主は、マルハット・スカイウォーク、設計のチームは私たちアスペクトと、3D設計とディテールを担当するスティックワークスです。グルーラムのメーカーのウェスタン・アークリブは、マスティンバーの柱・梁の調達を行いました。デザインパートナーのキンソルは、現場での施工を担っています。鋼材を担当したのは、ワイドオープンウェルディングです。
このプロジェクトでは木が使いたいというコンセプトがありました。右下のヘビーティンバーは、丸太から大きな部分を切り出します。右上はマスティンバーです。デザイナーにとっては、強度によってどれを使うのがいいのか?など柔軟に様々な選択肢が存在します。そして、現場の振動や雪・風の荷重や規制、天候、現場の様々な特徴や耐久性について考えていきます。
それでは、耐久性がどのように意図的に組み込まれたかについて、いくつか詳細をお話しましょう。左の写真では、構造材の間の木の色が違うのが見て頂けると思います。この部分は、雨が降ったときに構造材に雨が残らないように、もしクラッディングに入ったとしても流れ出て乾きやすいようにしています。紫外線も同様に、クラッディングによって長い耐久性を保ちます。
このタワーは森の中を長距離に及ぶため、右下のグリーンの木の部分のように雨抑えをして重要な部分を守っています。黄色の木材との間には空間を設け、雨で水が入ったとしても、乾きやすいように配慮しています。グリーンの一番上の木材は、25〜30年経って状態が悪くなったら、ネジを外して取替えることができます。簡単に取り替えることができる部分を取替えできるようにし、重要な本体を守ります。
もうひとつ、耐久性の観点から材料の仕様・特徴についてお話したいと思います。左上はハイウェイの橋で、アコヤという製品です。酢をベースにした成分を染み込ませるアセチル化処理することで、水が染み込みにくくなります。右上はグルーラムを使ったアーチ橋で、切り口に化学処理をして圧力処理装置にかけています。これにより、菌や経年による腐食を防ぐようにしています。また、選択肢としては天然で腐食しづらい素材を使うことがあります。一番下のイエローシダーがそれにあたり、木の中に化学成分があり、虫が付きづらい特性があります。耐久年数に対して、どのような素材を選び、どのような方法で建てるかを考えるは非常に重要です。
そして、コスト効率についても考えなければいけません。コストは重量だけではありません。木を使う場合は、すべてのコンポーネントはプレハブで作ることができ、現場での作業を少なくすることができます。大きい状態で運んできて組み立てると、作業時間を短くすることができ、小さいクレーンで作業も可能です。
コンクリートは、このようにヘリで運びます。コンクリート自体は高くないのですが、ヘリを飛ばすのに1時間あたり5千ドルかかりますので、今回の場合、コスト効率からはコンクリートの使用量は抑える必要がある、ということになります。
実現可能性、耐久性、コスト効率のお話をしてきましたが、ようやく本格的にデザインが始まります。デザインにおいては、図式プログラミングを使っています。ハイウェイからどうやってアクセスするのか?エントリーのパビリオン、ピクニックエリア、木の上を歩くウォーク部分、そして最終的にタワーに行き着きます。ここでしか設計できないデザインを図式プログラミングで行っています。
現場ではプログラミングの場所が実際どうなっているか?について調査を行い、デザインチームへフィードバックし、たくさんの時間をかけて最適なルートを探していきます。 デザインに合わせて木を切ったりするのではなく、自然を守りながらいかにしてデザインしていくか?が大切です。
こちらが調査結果を3Dに取り込んだものです。この図から、基礎からそのぐらいの距離があるか?歩道をどのようにするか?などを検討していきます。こちらを分析モデルに取り込み、エンジニアリングデザインに移ります。
こちらは、タワーの図面です。エンジニアリングによって、荷重や負荷に対する計算をすることができます。
この土地は、地震の可能性が高い場所の近くにあるため、その影響を考えなければなりません。この規模で大きな地震を体験している事例がありませんので慎重に検討を行います。
次に、重要なディテールについていくつかお話したいと思います。3Dモデルを使ってピースをまとめていくのですが、常に考えるのは、これが実際に現物になるということです。左上の図面は複雑に見えておりますが、プレハブの場合はすべて組み立てられてる一方、現場にこのように森の中でゼロから作るものを正確に伝えるには寛容性が必要です。
一つひとつが大変複雑ですが、時間をかけて最適なディテールにしています。
こちらが実際に組み立てている部分の写真と遠景です。それぞれが複雑なものを最適にデザインしていくことがなければ、現場でこのようにきちんと組み合わさっていくことはありません。一つひとつを適切に設計していくことは非常に重要です。
このようなプロジェクトでは、様々な工程があり、時間もお金も掛かります。工程は線が普通でしょうが、このようなプロジェクトの場合は、円を描いて繰り返していくことになります。前もって設計をするのがリスクになる場合もありますし、いろいろな課題がありますが、最新の情報を把握し、寛容性を以て進めていきます。
これは実際に現場の方から言葉をもらったのですが、“こんなにうまくいくとは思わなかった!”と。先程の各工程をきちんと取り組んだ結果で、“課題”が“成功”に変わったということです。
いくつか施工時の写真をご覧いただきたいと思います。こちらは、ツリーの基礎を埋め立てた後、柱を立てたところです。
ここはツリーを作るのにアクセスが良く、重機を使うのに大変助かりました。こちらは、ランプパネルです。スカイウォークのパネルは、このようにタワーを回っていく構造ですので、木材はすべて露出されます。
Q: 日本では、グリーンシーズンにどんなアトラクションを用意しようかと考えるリゾートもあります。グリーンシーズンへのアドバイスはありますか?
A:どのようなアクセスを提供するかによりますが、景色を提供しよう、自然に触れ合えるようにしよう、展望台とか、いろんな場所でいろんなタイプのアトラクションが考えられると思います。そういう場所に、どんな方も安全に訪れることができることが大切だと思います。
◎カナダリゾート地に関する情報
◎カナダリゾート地の建築プロジェクト設計士、リゾート事業に関する専門家
◎カナダリゾート地の建築物に使用されている木材
◎今後のリゾートセミナーへのご希望、最新情報
について、BCウッド日本事務所では皆様からのお問合せにお応えしております。 下記までお気軽にご連絡下さい。
TEL:03-6455-1571
E-mail: bcwood@bcwood.jp